コラム
管理柔道整復師が不在になったら?保険請求への影響と対処法を解説
2026.10.30
接骨院・整骨院で健康保険(受領委任)を取り扱うためには、「施術管理者」と呼ばれる管理柔道整復師の存在が欠かせません。しかし、施術管理者が急に退職してしまった、病気で長期間勤務できなくなったなど、管理柔道整復師が不在になる事態は、どの院にも起こり得ます。施術管理者が不在のまま施術を続けると、原則としてその期間の保険請求はできず、経営に深刻な影響が及びます。この記事では、管理柔道整復師が不在になった場合の受領委任の取扱い、変更届の手続き、後任者に求められる要件、そして不在期間を作らないための実務上のポイントを、整骨院経営者と勤務柔道整復師の方に向けてわかりやすく解説します。
管理柔道整復師(施術管理者)とは何か

管理柔道整復師とは、一般的に受領委任の取扱いにおける「施術管理者」を指す言葉として使われています。施術管理者は、地方厚生局に受領委任の取扱いを申し出て契約記号番号の交付を受け、その施術所で行われる施術と療養費の請求全体を管理する責任者です。受領委任とは、本来なら患者がいったん施術料の全額を支払い、後から保険者に払い戻しを請求する「償還払い」が原則である療養費について、患者が一部負担金のみを支払い、残りを施術管理者が患者に代わって保険者へ請求できる仕組みです。この契約は施術所単位かつ施術管理者単位で結ばれるため、施術管理者がいなくなれば、その施術所は受領委任を取り扱う根拠を失うことになります。
施術管理者の役割と責任
施術管理者は、施術録の管理、療養費支給申請書の作成と請求、勤務する施術者の管理など、保険取扱いに関わる一切の責任を負います。申請書には施術管理者の氏名が記載され、請求内容の正確性についても施術管理者が責任を持つ立場です。単なる肩書きではなく、行政との契約上の当事者である点が重要です。
受領委任契約は施術管理者と結ばれている
受領委任の契約記号番号は、施術所と施術管理者の組み合わせに対して交付されます。つまり、同じ施術所であっても施術管理者が交代すれば、新たに受領委任の申し出を行い、契約記号番号を取得し直す必要があります。院という「箱」ではなく「人」に紐づく契約であることを理解しておきましょう。
勤務柔道整復師との違い
勤務柔道整復師は、施術管理者の管理のもとで施術を行う立場であり、自ら保険請求を行うことはできません。何人柔道整復師が在籍していても、施術管理者としての届出が受理された人がいなければ、その院で受領委任を取り扱うことは認められないのです。
施術管理者が不在になると保険請求はどうなるのか
施術管理者が退職・長期離脱などで不在になった場合、原則としてその施術所では受領委任の取扱いができなくなります。受領委任契約の当事者である施術管理者がいない以上、患者から一部負担金のみを受け取って施術し、残額を保険者に請求するという取扱いの前提が崩れるためです。後任の施術管理者について地方厚生局への申し出が受理され、新しい契約記号番号による取扱いが始まるまでの期間は、保険請求ができない「空白期間」となります。この期間に従来どおり保険扱いで施術を続け、後からまとめて請求するといった処理は認められず、発覚すれば返還や受領委任の取扱い中止といった重い処分につながるおそれがあります。
不在期間の施術は原則自費または償還払い
施術管理者不在の期間に来院した患者に対しては、受領委任による取扱いができないため、施術料を全額自費でいただくか、患者自身が保険者に払い戻しを申請する償還払いの案内をすることになります。いずれの場合も患者の負担や手間が増えるため、事前の説明が欠かせません。
患者離れと経営への影響
保険が使えない期間が続けば、窓口負担の増加を嫌った患者が他院へ流れてしまう可能性が高まります。不在期間が長引くほど売上減少と患者離れが進むため、施術管理者の不在は単なる手続きの問題ではなく、経営の根幹に関わるリスクだと認識する必要があります。
無届けのまま請求を続けるリスク
施術管理者が実際には不在であるにもかかわらず、変更届を出さずに従前の名義で請求を続ける行為は、不正請求と判断されかねない極めて危険な対応です。受領委任の取扱い中止処分を受ければ、その後の開業や勤務にも影響が及ぶため、絶対に避けなければなりません。
施術管理者が交代するときの変更届と手続きの流れ

施術管理者の退職や交代が決まったら、速やかに関係機関への届出を進める必要があります。届出先は大きく分けて二つあり、一つは受領委任に関する地方厚生局(都府県事務所)、もう一つは施術所の開設事項に関する保健所です。地方厚生局に対しては、旧施術管理者に関する受領委任の取扱いの中止(辞退)と、新施術管理者による受領委任の申し出を行います。新しい施術管理者の申し出には、確約書や実務経験期間証明書、施術管理者研修修了証の写しなどの添付書類が求められます。保健所に対しては、施術所の開設者や勤務施術者に変更があった場合の変更届を、変更から10日以内を目安に提出します。書類に不備があると受理が遅れ、その分だけ保険請求できない期間が延びるため、事前に管轄の窓口へ確認しながら準備することが大切です。
地方厚生局への受領委任の申し出
新しい施術管理者は、様式に沿って受領委任の取扱いの申し出を地方厚生局へ提出します。受理されると新しい契約記号番号が付与され、その受理日以降の施術について受領委任による請求が可能になります。受理日より前に遡って請求することは原則できない点に注意が必要です。
保健所への変更届
施術所の開設届に記載した事項(開設者、勤務する施術者など)に変更が生じた場合は、保健所への変更届が必要です。厚生局への申し出の際に保健所の届出済証明などを求められることもあるため、両方の手続きを並行して進めるとスムーズです。
提出のタイミングが空白期間を左右する
退職日が決まっているのに手続きを後回しにすると、そのまま保険請求できない期間が発生します。交代が決まった時点で必要書類を洗い出し、退職日と新管理者の届出受理日が途切れないようにスケジュールを組むことが、実務上もっとも重要なポイントです。
後任の施術管理者に求められる要件
後任の施術管理者は、誰でもすぐになれるわけではありません。平成30年4月以降、施術管理者として受領委任の取扱いを申し出るには、柔道整復師の資格に加えて「実務経験」と「施術管理者研修の受講」という二つの要件を満たす必要があります。実務経験の必要期間は段階的に引き上げられており、令和6年4月以降は原則3年間の実務経験が求められます。実務経験は届出済みの施術所での勤務が基本で、保険医療機関(整形外科など)での従事期間も一部算入できますが、算入には上限があります。研修は連続2日間・合計16時間程度で、公益財団法人柔道整復研修試験財団が実施しています。要件の概要は次の表のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 資格 | 柔道整復師免許を有していること |
| 実務経験 | 令和6年4月以降の届出は原則3年間(実務経験期間証明書が必要) |
| 研修 | 施術管理者研修(2日間・16時間程度)の修了 |
実務経験期間証明書の準備
実務経験は、勤務していた施術所の施術管理者などが発行する「実務経験期間証明書」によって証明します。過去の勤務先に発行を依頼する必要があるため、退職から時間が経っていると準備に時間がかかることがあります。後任候補には早めに証明書の手配を促しましょう。
施術管理者研修は先に受講できる
施術管理者研修は、実務経験の要件を満たす前でも受講することができます。開催回数や定員には限りがあるため、将来管理者になる可能性がある勤務柔道整復師には、余裕のあるうちに受講させておくことが空白期間の防止につながります。
開設者が柔道整復師でない場合の注意
開設者が柔道整復師でない法人経営の院などでは、雇用している柔道整復師の中から施術管理者を立てることになります。管理者候補が退職すると代わりがいないという事態を避けるため、要件を満たすスタッフを複数確保しておく視点が重要です。
不在期間を作らないための実務ポイント
施術管理者の不在リスクへの最善の対策は、不在期間そのものを作らないことです。そのためには、日頃からの人材育成と、退職が判明した時点での迅速な段取りが鍵になります。まず、勤務柔道整復師の実務経験年数を把握し、施術管理者研修を計画的に受講させて、いつでも後任を立てられる体制を整えておきます。次に、就業規則で退職の申し出時期を明確にし、施術管理者には特に余裕を持った退職予告を求める運用をしておくと、手続きの時間を確保しやすくなります。退職が決まったら、直ちに地方厚生局と保健所に相談し、必要書類と受理までの見込み期間を確認したうえで、旧管理者の最終勤務日と新管理者の受理日が連続するよう逆算してスケジュールを組みます。自院だけで判断が難しい場合は、請求団体や開業支援の専門家に早めに相談することで、書類不備による遅延を防げます。
後任候補の計画的な育成
施術管理者の要件は一朝一夕には満たせません。採用時から各スタッフの実務経験のカウントを意識し、研修受講を業務計画に組み込んでおくことで、突然の退職にも慌てず対応できる体制が作れます。
退職予告と引き継ぎルールの整備
施術管理者の交代には行政手続きが伴うため、一般のスタッフ以上に早い退職予告が必要です。雇用契約や就業規則で予告期間を定め、施術録や申請書類の引き継ぎ手順もあらかじめ文書化しておきましょう。
迷ったら専門家に相談する
届出様式や添付書類は管轄によって運用が異なる場合があり、自己判断で進めると差し戻しで時間を失いがちです。受領委任や開業手続きに詳しい団体・専門家に相談すれば、最短ルートで手続きを進められます。
まとめ
管理柔道整復師(施術管理者)が不在になると、その施術所では原則として受領委任の取扱いができなくなり、保険請求のできない空白期間が生じます。空白期間中の施術は自費または償還払いとなり、患者離れと売上減少に直結するため、施術管理者の退職・交代が見えた時点で、地方厚生局への受領委任の申し出と保健所への変更届を速やかに進めることが不可欠です。後任者には実務経験と施術管理者研修の修了が求められるため、日頃から要件を満たすスタッフを育成しておくことが最大のリスク対策になります。施術管理者の交代手続きや後任の要件確認に不安がある方は、専門家への相談を活用しながら、不在期間ゼロでの引き継ぎを目指しましょう。
